大脳皮質形成プロジェクト

微小管関連蛋白質による神経細胞遊走の制御

1. 神経細胞遊走 Neuronal migration とは

 ヒトの大脳皮質形成過程は大まかに次のステージからなります。

  1. 神経胚形成 (Primaryneurulation) 胎生3-4週
  2. 終脳発達 (Telencephalic development) 胎生2-3ヶ月
  3. 神経細胞増殖 (Neuronal proliferation) 胎生2-4ヶ月
  4. 神経細胞遊走 (Neuronal migration) 胎生2-5ヶ月
  5. 組織化 (Organization) 胎生5ヶ月〜生後
  6. 髄鞘化 (Myelination) 周生期〜生後

 成熟した大脳皮質は、異なる形態と機能をもつ神経細胞が6層からなる層構造をとりますが、それらの細胞ははじめからその場所で生まれるのではなく、側脳室に面した脳室帯 (Ventricular zone) と呼ばれる増殖層において神経前駆細胞から最終分裂の結果生成された神経細胞が、自身の細胞体長の何百倍もの距離を遊走 (migration)して、遺伝的プログラムによって定められた大脳皮質内の位置に到達し、厳密に制御された6層構造を構築します。脳室帯 (Ventricular zone)から遊走を開始した神経細胞は、早生まれのものほど大脳皮質板(Cortical plate)内で下の層に留まり、遅生まれの細胞ほど、皮質板内で上の層へ到達します。これを、”inside-out”の原則と呼びます。個々の神経細胞の遊走過程は、3つの出来事の繰り返しです:1) 先導突起伸展, 2) 核・細胞質移動, 3) 後方突起収縮。

neuronal migration

2. 神経細胞遊走障害とDoublecortin (DCX) 遺伝子

 難治性てんかんと精神遅滞を伴う患者の頭部MRIで、女性には一見正常の大脳皮質下白質内にもう一層の灰白質が存在する「皮質下帯状異所性灰白質 subcortical band heterotopia (SBH), 別名 double cortex syndrome」を生じ、男性には更に重症の異常4層大脳皮質と脳回・脳溝の欠失した平滑な脳表を呈す「滑脳症」を生じる、X連鎖性滑脳症/SBHという病態が発見され、連鎖解析よりXq22.3-q23上の原因遺伝子doublecortin (DCX) が同定されました。XLIS/SBH
 DCX遺伝子ヘテロ変異を持つ女性はランダムなX染色体不活化によるモザイク状態であり、正常遺伝子を発現する神経細胞は正常に遊走し皮質を形成しますが、変異遺伝子を発現する神経細胞は遊走異常を起こし皮質下白質内に異所的に留まり、SBHの表現型を来します。それに対し、男性はX連鎖遺伝子ヘミ接合のため、DCX変異により全神経細胞が変異遺伝子を発現し滑脳症の表現型を来します。

 360アミノ酸(AA)からなるdoublecortin (DCX)タンパク質のミスセンス疾患変異はAA 42-129と178-253の2領域にクラスター状に分布し、配列解析からこの2領域は相同性を持ち、原虫からほ乳類まで進化的に保存されたタンデム微小管結合配列である事が明らかとなりました (N-DCX領域 AA 47-135, C-DCX領域 AA 174-259)。DCXのC末端AA 268-360には、セリン・プロリン(SP)リッチ領域があります。

Dcx gene

Dcx protein

 大変興味深いことに、17番染色体上のLIS1遺伝子変異はDCX変異とほぼ同一の表現型である常染色体優性滑脳症を生じる事が、DCX遺伝子のクローニングよりも前に示されていました。それではなぜ、DCXLIS1という全く異なる遺伝子の変異が、同じ滑脳症を引き起こすのでしょうか?

3. 私たちの研究紹介

 私たちは、ヒト滑脳症の原因遺伝子DCXの哺乳動物の神経細胞遊走における機能を、次の3つの問いからスタートし、パートナー遺伝子との相互作用という観点から解析していきました。

  1. DCXLIS1という全く異なる遺伝子の変異が、なぜ同じ滑脳症を引き起こすのか?
  2. 神経細胞遊走障害モデルマウスである、Cdk5ノックアウトマウスの異常な大脳皮質の表現型は、なぜヒトの滑脳症と類似しているのか?
  3. Dcxノックアウトマウスの大脳皮質表現型は、なぜヒトの滑脳症と全く異なるのか?

 それぞれのquestionから、

1). DCXとLIS1の相互作用について(→詳細)

2). DcxとCdk5の相互作用について (→詳細)

3). DcxとDclkの相互作用について(→詳細)

の研究を展開し、各々に関してDcxの機能について未知の新しい知見を得ることが出来ました。各研究のリンク先と下図のsummaryをご覧下さい。

 

conclusion